2012/10/14

TI Nspire CX CAS


 文具の情報を求めてこのブログを閲覧している人には耳慣れない名前でしょう。それもそのはず、今回は電卓の話です。


 この電卓、ひと目で分かるでしょうけど並の電卓ではありません。普通の電卓にはカラー液晶はついていませんし、AからZまでの独立したキーもありません。


 さて、この電卓の持つ機能を列挙していきましょう。
 まずはこれがなくちゃ電卓とは呼べない、計算機能。CAS(数式処理システム)が搭載されているのでいろいろなことができます。
 次にグラフ機能。二次元のグラフはもちろんのこと、三次元のグラフまで描画可能です。
 グラフ機能と少し似ていますが、作図機能もついています。
 また、スプレッドシートの編集も可能。持ち運び可能なexcelのようなものです。
 さらにそのスプレッドシートで編集したデータをプロットしたり、回帰分析をしたり、ヒストグラムを表示する機能もあります。
 あとはテキストエディタ。キーボードがQWERTYではなくABC順なので使いにくいですが。
 おまけにVernier社のセンサを電卓につなぐことで、データ採取もできちゃいます。(しかしこの会社のセンサは高い!)
 電源は電池ではなくバッテリです。


 まずは計算機能。CASというのは素晴らしいもので、方程式の解を求めることはもちろん、因数分解や微積分までできてしまいます。その積分も一般的な関数電卓の数値積分ではありません。不定積分が求められるのですから驚きです。
 例えば∫[0→1]cos(ln(x))dxは、数値積分ではlim(x→0)がcos(∞)と振動してしまうので値が定まらず、求めることができません。しかしCASならばちゃんと1/2と正しい答えを返してくれます。それも一瞬で。
 関数電卓の積分機能を利用したことがある人ならばわかると思いますが、数値積分は答えが出るのが遅いのです。CASIOのfx-913ESは∫[1→2π+1](cos(x))^9 dxを計算するのに1分15秒で0を返します。また、数値積分ですので[0→2π]と[1→2π+1]では答えが変わってきてしまいます。Nspireでは1秒もかかりません。一瞬で0を表示します。範囲が移動しても影響ありません。さらに∫[1→2π+1](cos(x))^99 dxを計算すると2分30秒で2.635460236×10^-15です。Nspireではこの関数をCASで計算すると膨大な時間がかかってしまいますので、数値積分を使って計算します。結果は約1秒で-9.41×10^-14。早い。けど精度は一桁分落ちましたね。
 しかし、この電卓にはPC用のソフトウェアがついてきます。内容は全く同じ。そちらで計算すると5.969×10^-16です。Handheldに比べて二桁分精度が上がりました。さらに、そこそこ性能の良いPCを使えば、この膨大な計算が必要なCASでの積分も10秒程度で計算してくれます。答えは当然0です。
 また、内部の桁数もかなりあるようです。一般的な電卓は内部12桁、表示10桁が多いようです。こういった電卓ではたいてい10^99までしか計算できません。階乗で言えば69!が限界です。対してNspireはなんと、10^999まで対応しています。449! = 3.85×10^997なんて計算までしてくれるのです。
 また、表示できる桁数も尋常ではありません。たとえば70!は11978571669969891796072783721689098736458938142546425857555362864628009582789845319680000000000000000まできっちりと表示してくれます。内部は何桁で計算しているのでしょうか。
 虚数の計算にも対応しています。適当にcSolve(x^4 - 3x^3 + 8x^2 - 15x + 12 = 0,x)を計算してみると
x=1.4098829224799+0.57683993545399i
x=1.4098829224799-0.57683993545399i
x=0.0901170775201+2.2722558464281i
x=0.0901170775201-2.2722558464281i
なんて数字を出してくれます。当然虚数を考慮しないSolveもあって、そちらでの解はfalseでした。
 i^iもe^(-π/2)まできっちりと表示。素晴らしい。
 ひとつだけ不満があるとすれば、物理定数が入っていないことでしょうか。私が見つけられないだけなのかな? 自分で簡単な関数を作ってしまえばいくらでも入れられますけどね。


 グラフ機能。2Dグラフも面白いですが、なんといっても3Dグラフが楽しい。その3Dグラフはバージョン3.2でパラメトリックという項目が増えました。これによって球などの図形も表示できるようになっています。このグラフ、もちろん視点をグルグルと回すことも可能です。
 2Dグラフではグラフの交点を求めたり、積分値を出したりといった機能があります。

 作図機能……すいません、使い方わかりません。












 スプレッドシートとデータ統計機能では、こんなふうに画像にある曲線上に点をプロットし、その曲線の関数を求める機能もあります。回帰分析以外にもヒストグラムを表示したり、正規分布の偏差を求めたり、t検定やΧ二乗検定ができたりします。やたら多機能です。

 ノート機能は数式の埋め込みなんかができる以外はただのテキストエディタで、DataQuestはセンサを持っていないので使えません。

 実に多機能。その上、計算の精度もCASによって素晴らしいものとなっています。CASが使えない計算でも桁数が多いため、相当な高精度を必要とする場面であっても実用に足るでしょう。他の電卓でできてこの電卓でできないことなど、逆ポーランド記法くらいではないでしょうか?


 まだまだこの電卓は多機能すぎて使いこなせていません。使ったことのない機能や関数がいっぱいあります。中には金融電卓のような機能もあるようで、使い方以前に用途がわからないようなものも多いです。
 これを使いこなせるようになるには苦労するでしょう。マニュアルも英語とフランス語のものしかありません。買う場所によっては日本語マニュアルあるらしいですけど。

 これを買う前はCASIOのfx-CG10と迷いました。が、こちらを買って非常に満足しています。値段さえ問題にならなければNspireを買うべきでしょう。