2012/05/25

万年筆用潤滑剤に関する考察。

私はたまに823を分解清掃します。その際に使用する潤滑剤は、Diamond 530に付属していたシリコーンオイルでした。これはシリコーンを主成分とする潤滑剤で、もちろんオイルというくらいですから液体です。
 さて、このシリコーンオイル、ただのピストン吸入式ならばさしたる問題なく使用できるのかもしれません。また、透明軸の透過性を保ちたいならば良い選択でしょう。
 しかし、相手はプランジャ吸入式の823です。プランジャ式ではインク吸入の瞬間、ピストン式よりもずっと大きい速度でインクが吸われていきます。そのため、液体のシリコーンオイルではオイルがインク内に分散してしまうのです。
 その結果、まず摺動面(ピストンと胴軸内壁)に付着した潤滑剤がすぐにはがれてしまい、潤滑効果が無くなってしまいます。更に、オイルが分散したインクをペン芯に供給することとなってしまいます。具体的な悪影響は感じませんが、気持ちのいいものではありません。また、インクタンク内壁にインクがまだらに付着します。実害はありませんが、外観を損なっていることは否めません。
 つまり、潤滑剤に液体であるシリコーンオイルを使用することは極力避けたほうがいい、ということです。特にプランジャ式である823にはほぼ使用する意味がなく、むしろ悪影響ばかりが目立っています。Diamond 530でもインクタンクの透明度を保ちたいという理由がないならば、シリコーンオイルを使用すべきではないでしょう。

 シリコーンオイルがだめならばどんな潤滑剤を使用するべきでしょう。当然、液体であることが悪影響の原因となっているので、半固体であるグリースを使用すればいいのです。
 しかし、ホームセンターに行ってグリースを見てみると、種類がいろいろで何を選んでいいのかわからなくなってしまいます。とりあえずシリコーングリースを選べば間違いはないのだろう、とは思っていましたが、シリコーングリースの高いこと。他の安いグリースで済むならばそれに越したことはない、と思ったのですが、私はグリースについての知識は乏しかったためにその他のグリースを使用していいものか判断がつきませんでした。
 そこで、グリースについて少々勉強しました。グリースは「基油」「増稠剤」「添加剤」の三つから成り立ち、ゴムやプラスチックに使用する場合は「基油」が重要となってくるようです。鉱油系などを基油とする多くのグリースはゴムやプラスチックを侵してしまいます。
 ここで万年筆用潤滑剤に求める二つの性能が決定しました。

1. 樹脂を侵さない
2. 耐水性に富む

 まず一つ目の「樹脂を侵さない」です。これは基油に依存し、シリコーン系かフッ素系のどちらかのみが適合するようです。炭化水素系も樹脂を侵しにくいそうですが、シリコーンに比べれば劣るとのこと。フッ素系グリースは非常に高価なので、これだけでほぼシリコーン系一択に絞られてしまいました。タミヤのセラミックグリースも基油は不明ですが樹脂を侵さないそうです。
 二番目の耐水性。シリコーングリースを調べてみれば、耐水性はなかなかあるらしい。対してタミヤのセラミックグリースは耐水性には劣るようなので、万年筆用には不適です。
 結局、シリコーングリース以外の選択肢は残りませんでした。ちょっと高いけど素直にシリコーングリースを買いなさい、というわけです。

 と、いうわけでシリコーングリースを購入、823をOHしてシリコーングリースを使ってみました。
 まず分解後、ピストンにグリースを少量塗布。その状態でピストンを何度か胴軸に通した後、胴軸内壁の首軸付近テーパ部をキムワイプで拭いました。以前、ここに溜まったグリースが悪さをして棚吊りを起こしていたためです。
 組み上げ、インクを吸入してみると明らかに以前とは違います。まずインクタンク内にインクでまだら模様を描かれていた現象がなくなりました。外観の悪さは改善されています。また、インクタンク内が薄く曇っています。823購入当初はこのような状態だったはずです。純正の状態に近付いたわけですね。また、棚吊りは起こっていません。インクが少なくなってきたらまた起こるかもしれませんが。

 余談ですが、古典BB入りのペンを洗浄した時、アスコルビン酸を溶かしたコップの中に固まったインクと思しき極々細かい固形物が浮いているのを発見することがあります。そんなとき、確実に万年筆が綺麗になっていっている実感とともに「こんな固形物ができるような使い方をしているのか……」とも思います。もう少し大事に使ってあげるべきなのでしょうね。

2012/05/05

KOKUYO ミストラル

 現存する数少ないボディノックMP、コクヨのミストラルです。
 ボディノックはMPをノックするときにいちいちペンを持ち替えてノックするのが煩わしい人に嬉しい機構です。似たような機構であるサイドノックに比べて、どの向きに曲げても芯が出るためにペンの持ち方を制限しないことが特長です。手動クルトガを行う殆どの人はサイドノックよりはボディノックのほうが向いているかと思われます。
 とはいえ、既に世の中にはそうしたノックの手間を省くためのもっと簡単な仕組みが出回っています。いわゆるフレフレです。あちらのほうが製造は簡単で癖も少ない。ボディノックは本当に好事家しか欲しがらないでしょうね。
 少し前にトンボからオルノが発売されました。あれを見てボディノックいいなぁと思ったのですが、オルノはなんとも安っぽい。もうすこしクォリティの高いものはないかと探して、このミストラルにたどり着きました。現行で売られているのはこのミストラルとオルノの二種類だけしかないのでは。そもそも廃盤品を含めたところでそこまで種類は多くないでしょうね。


 


 このミストラル、色が二種類あります。そして色で値段が違います。シルバーが1000円、パールクリアが1500円です。私はシルバーのほうが好みの色なのですが、シルバーは軸がサテン仕上げになっていて滑りやすいと聞きました。ハイトガの滑りやすいと有名なあのグリップのようになっているのでしょう。そのため、実用度をとってパールクリアを選びました。Amazonだとそんなに値段に違いはありませんでしたし。

 口金は製図用に似たフォルムです。スリーブがあと2 mm長ければ文句なしで製図に使える形です。
 全体の形はCROSS製品かと思ってしまうような雰囲気です。ちょっとクリップが安っぽいかな。
 肝心のボディノック部分です。中身は普通のノック式です。つまりこういうことです。
 天井部分はドリル穴のようになっているようです。滑りのいい樹脂が使われています。POMでしょうか。ノック部分もただの摩擦ではなく転がり摩擦とするために、ボールペンのペン先のような構造になっています。摩擦低減がボディノック製品化のネックだったのでしょうねぇ……。


 こうしたコストを掛けて機構を作っているだけあって、ノック時に摩擦は殆ど感じません。

 芯の補充はこのノック部を外して行います。今時珍しいクリーナーピン付きです。今のMPには殆どついていませんね。目に入ると危ないから、とかいう理由を聞いたことがありますが、真偽はわかりません。
 このペン、消しゴムがあってないようなものです。直径が小さいためにとても取り出しにくく、いざ使おうと思っても小さすぎて使いにくい。この点はとても嬉しいです。人に貸した時に勝手に消しゴムを使われる可能性が低くなります。いっそのことついてなかったらもっと良かったのですが。