二つ目の理由は副次的なものと思われますが、今回はこちらに関して考察します。
そも、ペン先の柔らかさとは何か?
ここでは「ペンポイントへペン先に対して垂直方向の荷重を加えた際の、ペン先先端における単位荷重あたりの変位」と定義します。ペン先先端でのバネ定数の逆数です。ようするに同じ荷重をかけたときに大きくたわむ物は柔らかいということです。当たり前ですね。
では、ペン先がたわんだ際、人間の手はどのように柔らかさを感じるのでしょう?
ペン全体を上下方向に並進運動させて文字を書く人はまずいないと思います。一般的には指先を動かして文字を書くでしょう。その場合、ペンの運動は写真に示したA点を中心とした回転運動となります。ここで紙面にペン先を置いた状態から筆圧をかけます。すると、ペン先のたわみによって∠Aが小さくなることがわかります。つまり、人間の手が柔らかさを感じるということはこの∠Aの減少を感じているということです。減少量が大きければ柔らかく感じ、少なければ硬く感じます。
すると、「ペンを寝かせたほうが柔らかさを感じる」とは一概に言えないということになりますね。たしかにペンを寝かせると筆圧のペン先垂直方向成分が多くなるのでペン先のたわみは大きくなることでしょう。
しかし角度の変化φを考えると、たわみxが同じ場合は画像のlが短いほうがφは大きくなるのです(φ = x/l)。hは使用者の手の大きさによって決まる定数と考えられるので、lを短くするということはペンを立たせるということになって、ペンが立つとたわみが減って……ああ、一方を伸ばせばもう一方が小さく……。
では計算しましょう。角度の変化φ[rad]をl[mm]で偏微分して極値を出せばいいのです。
まずペン先たわみの式です。
Fv : 筆圧のペン先垂直方向成分 [N]
s : 柔らかさ [mm/N]
x : ペン先変位 [mm]
また、xは前述の式から
です。
さらに筆圧のペン先垂直方向成分は図より
となります。
F : 筆圧 [N]
θ : 筆記角度 [rad]
よって(1)式は
です。
更に、図より
なので
となります。
これをφについて解くと
更にlで偏微分して
この式が0と等しくなるlが極値ですので、
という式になり、これをlについて解くと
です。(l = ∞も解のひとつです。)
これを筆記角度に直せば
となります。(ArcSinは右辺に付けなきゃいけないんだった、と気づいたけど面倒なので修正しない)
つまり、筆記角度45度のときが最も柔らかさを感じるということです。
F = s = 1、h = 0.1の時のφのグラフです。
たしかにl = √2 h = 0.1414付近がピークとなっています。
hが0.1だと、45度以下の時は殆ど感じ取れないようなものですね。実際のhは1以上なのでここまで極端なグラフにはなりませんけど。
※実際の筆記では摩擦力もペン先を変形させる力として働きますが、それは上から下に線を引く場合のみの話なので、今回は垂直抗力のみで考えました。
また、ここでは筆圧を一定の値として計算しましたが、手から加えられるモーメントによって変化する = lの関数になるかもしれません。その場合は計算結果は違ってくるかも。
というわけで、つまるところ万年筆の柔らかさを一番よく味わいたいならば筆記角度45度で書きましょうというお話でした。
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