2012/11/17
趣味の文具箱×Sailor Professional Gear Realo NMF
趣味文限定ブルーのプロギアレアロ、長刀です。
店員さんが通常ラインのレアロに長刀はないとおっしゃってましたが、セーラーショップで受注生産品ながら普通に売っていますね。ちょっと騙された気分。
私は長刀を初めて使いますが、このペン先は入手以前から日本語に最も適したペン先だと思っていました。なぜなら多くの太字万年筆と違い、このペン先は縦細横太の描線が引けるからです。
そもそも漢字を最も美しく書ける筆記具といえば筆以外にないでしょう。その筆も縦細横太。筆と似た描線の長刀が美しい日本語を書けることは自明でしょう。
対して万年筆の一般的な太字は縦太横細。アルファベットを書くには優れた形ですが、漢字を書くには……。面白い、という評価はできても適しているとは言いがたく思います。
カリグラフィーペンで書いた文字と比べても、長刀のほうが整った印象に見えます。これのグレードアップ版のようなキングイーグルも欲しくなってしまいます。
線の太さはNMF、つまり長刀中細となっていますが太いです。国産M相当であるWAと比べても全く違います。
また、ペンの角度によって線の細さを変えることができます。ただこの太さ、この描線に惹かれて手にしたものなので、それを最大に生かせる角度以外では書く気がおきません。
書き味はそこまで良くはありません。インクの粘度も少々低いようですが、それでもサリサリとした抵抗があります。自己調整したM1000のぬらぬら加減と比べると、やはりそこまで気持ちよさはありません。まあこの描線が引けるなら些末事です。
軸ですが、非吸入のプロギアに比して違う点は一見して三箇所です。インク窓、尻軸長さ、そして天冠。インク窓と尻軸は吸入式のための変更ですが、天冠はちょっと残念。以前買ったプロギアは立体的な錨のマークでした。銀一色なのは塗料が剥がれてしまったからです。そして今回買ったレアロの天冠は印刷しただけのようなのっぺり感。高級感は確実に落ちています。
そして見た目以外で驚いたことが一つ。このペン、とても軽いです。通常のプロギアと比べてみたところ、なんと吸入式でありながら通常のものよりも軽くなっています。秤で計測してみると
通常:25.3 g
レアロ:21.2 g
と、なんと4 gも軽い。インクを入れたままなので正確な数値ではありませんが、16%の軽量化は持った時にはっきりと感じることができます。これだけ軽いということは、吸入機構の殆どの部品は樹脂製でしょう。初期投資が大きいにもかかわらず樹脂部品を多く利用するということは、それだけ軽量化にこだわり、そしてレアロに期待しているということなのでしょうか? 後者はおそらく違うように思いますが。
ここまで軽量化されたレアロですが、重いペン好きな私にとっては好ましいことではないんですよね……。リアヘビーも嫌いじゃないですし。まあ、悪いとは言いませんけど。
軸色は趣味の文具箱のイメージカラー、青が採用されています。また、天冠と尻軸、首軸は黒い樹脂のままです。深く暗い青と黒の組み合わせはなかなか合っています。
ペン先は銀一色です。本当はバイカラーが好きなんですが、この軸には銀一色のほうがいいかもしれません。
また、インク瓶がひとつついてきます。名前は趣味の文具箱ブルー。ナガサワで買ったら同じインクをもう一瓶つけてくれました。今回買ったペンにはストレートにこの付属インクを吸入。
私は明るめの青はデュポンのロイブルしか持っていませんでした。そのロイブルを買ったときは鮮やかではっきりした青だと思いましたが、今回のブルーを見たあとではくすんで見えます。
またもや前回使った色見本を再利用。一番下が趣味文ブルーです。
赤みを殆ど感じず、彩度高く、濃いのに明度は低過ぎない。これを青と言わず何を青とする、と言わんばかり。ロイブルは紫がかっていると言いますが、ようやく理解できました。青は色相環では赤と緑の間ですが、このインクはどちらにも偏っていない、純粋な青に見えます。
また、セーラーの青ということで赤光りを心配していましたが、大したことはありませんでした。
しかしこのインクは鮮やかすぎる。こればかりを使っていると目が疲れてしまいそうです。そんな時はデュポンのロイブルがいいですね。このインクよりもわずかに彩度が低いのですが、その少しの差が優しげな印象を与えます。
インク瓶の他におまけがもうひとつ。ASHFORDの革のキーホルダーです。あんまり活用法が見いだせません……。特にキーホルダーつけるようなものもありませんし。
2012/10/14
TI Nspire CX CAS
文具の情報を求めてこのブログを閲覧している人には耳慣れない名前でしょう。それもそのはず、今回は電卓の話です。
この電卓、ひと目で分かるでしょうけど並の電卓ではありません。普通の電卓にはカラー液晶はついていませんし、AからZまでの独立したキーもありません。
さて、この電卓の持つ機能を列挙していきましょう。
まずはこれがなくちゃ電卓とは呼べない、計算機能。CAS(数式処理システム)が搭載されているのでいろいろなことができます。
次にグラフ機能。二次元のグラフはもちろんのこと、三次元のグラフまで描画可能です。
グラフ機能と少し似ていますが、作図機能もついています。
また、スプレッドシートの編集も可能。持ち運び可能なexcelのようなものです。
さらにそのスプレッドシートで編集したデータをプロットしたり、回帰分析をしたり、ヒストグラムを表示する機能もあります。
あとはテキストエディタ。キーボードがQWERTYではなくABC順なので使いにくいですが。
おまけにVernier社のセンサを電卓につなぐことで、データ採取もできちゃいます。(しかしこの会社のセンサは高い!)
電源は電池ではなくバッテリです。
まずは計算機能。CASというのは素晴らしいもので、方程式の解を求めることはもちろん、因数分解や微積分までできてしまいます。その積分も一般的な関数電卓の数値積分ではありません。不定積分が求められるのですから驚きです。
例えば∫[0→1]cos(ln(x))dxは、数値積分ではlim(x→0)がcos(∞)と振動してしまうので値が定まらず、求めることができません。しかしCASならばちゃんと1/2と正しい答えを返してくれます。それも一瞬で。
関数電卓の積分機能を利用したことがある人ならばわかると思いますが、数値積分は答えが出るのが遅いのです。CASIOのfx-913ESは∫[1→2π+1](cos(x))^9 dxを計算するのに1分15秒で0を返します。また、数値積分ですので[0→2π]と[1→2π+1]では答えが変わってきてしまいます。Nspireでは1秒もかかりません。一瞬で0を表示します。範囲が移動しても影響ありません。さらに∫[1→2π+1](cos(x))^99 dxを計算すると2分30秒で2.635460236×10^-15です。Nspireではこの関数をCASで計算すると膨大な時間がかかってしまいますので、数値積分を使って計算します。結果は約1秒で-9.41×10^-14。早い。けど精度は一桁分落ちましたね。
しかし、この電卓にはPC用のソフトウェアがついてきます。内容は全く同じ。そちらで計算すると5.969×10^-16です。Handheldに比べて二桁分精度が上がりました。さらに、そこそこ性能の良いPCを使えば、この膨大な計算が必要なCASでの積分も10秒程度で計算してくれます。答えは当然0です。
また、内部の桁数もかなりあるようです。一般的な電卓は内部12桁、表示10桁が多いようです。こういった電卓ではたいてい10^99までしか計算できません。階乗で言えば69!が限界です。対してNspireはなんと、10^999まで対応しています。449! = 3.85×10^997なんて計算までしてくれるのです。
また、表示できる桁数も尋常ではありません。たとえば70!は11978571669969891796072783721689098736458938142546425857555362864628009582789845319680000000000000000まできっちりと表示してくれます。内部は何桁で計算しているのでしょうか。
虚数の計算にも対応しています。適当にcSolve(x^4 - 3x^3 + 8x^2 - 15x + 12 = 0,x)を計算してみると
x=1.4098829224799+0.57683993545399i
x=1.4098829224799-0.57683993545399i
x=0.0901170775201+2.2722558464281i
x=0.0901170775201-2.2722558464281i
なんて数字を出してくれます。当然虚数を考慮しないSolveもあって、そちらでの解はfalseでした。
i^iもe^(-π/2)まできっちりと表示。素晴らしい。
ひとつだけ不満があるとすれば、物理定数が入っていないことでしょうか。私が見つけられないだけなのかな? 自分で簡単な関数を作ってしまえばいくらでも入れられますけどね。
グラフ機能。2Dグラフも面白いですが、なんといっても3Dグラフが楽しい。その3Dグラフはバージョン3.2でパラメトリックという項目が増えました。これによって球などの図形も表示できるようになっています。このグラフ、もちろん視点をグルグルと回すことも可能です。
2Dグラフではグラフの交点を求めたり、積分値を出したりといった機能があります。
作図機能……すいません、使い方わかりません。
スプレッドシートとデータ統計機能では、こんなふうに画像にある曲線上に点をプロットし、その曲線の関数を求める機能もあります。回帰分析以外にもヒストグラムを表示したり、正規分布の偏差を求めたり、t検定やΧ二乗検定ができたりします。やたら多機能です。
ノート機能は数式の埋め込みなんかができる以外はただのテキストエディタで、DataQuestはセンサを持っていないので使えません。
実に多機能。その上、計算の精度もCASによって素晴らしいものとなっています。CASが使えない計算でも桁数が多いため、相当な高精度を必要とする場面であっても実用に足るでしょう。他の電卓でできてこの電卓でできないことなど、逆ポーランド記法くらいではないでしょうか?
まだまだこの電卓は多機能すぎて使いこなせていません。使ったことのない機能や関数がいっぱいあります。中には金融電卓のような機能もあるようで、使い方以前に用途がわからないようなものも多いです。
これを使いこなせるようになるには苦労するでしょう。マニュアルも英語とフランス語のものしかありません。買う場所によっては日本語マニュアルあるらしいですけど。
これを買う前はCASIOのfx-CG10と迷いました。が、こちらを買って非常に満足しています。値段さえ問題にならなければNspireを買うべきでしょう。
2012/09/15
EverBest? 詳細不明
貰い物です。
一緒に写ってるペンは823とM1000です。決してM300やM400ではありません。M1000です。
軸の大きさと相まってペン先も大きいです。繰り返しますがペリカンのペンはM1000です。823ももちろん15号ニブです。この写真じゃ5号と言われても信じそうですね。LAMY2000のペン先と比べてみたら大きい大きい。とはいえ、多分149やキングプロフィットには負けるでしょうけど。
軸には何か塗ってあるようです。もしかして漆でしょうか。しかし漆塗りの質感を知らないのでよくわかりません。
ペン先は現代の平均よりは多少柔らかめでしょうか。しかしM1000には劣ります。
インク吸入方式はおそらくインキ留め? しかし首軸が外れないのでどのようにして入れるのか不明です。尾軸のネジ長さと抵抗感の低さから、プランジャとは考えにくいです。単に色々と死んでいるだけの話かもしれませんが。どのみちプランジャでも首軸が外れないのはメンテナンス性の観点からマイナスです。
ペン先にはインキのカスが残っています。もともと古典BBが入っており、それを赤インクに変えたと思われます。水につけるとプラチナの赤のようなインキがでろでろと……。
尻軸を緩めた状態で水入りのコップにペンを沈め、少し置いてから引き上げると水が流れだしてきます。これは尻軸側の気密が死んでいるためです。何らかの方法でインキを入れたところで、ボタ落ちばかりで使い物にならないであろうことがわかります。尻軸をきちんと締めるとボタ落ちはしませんが、少し緩めただけでアウトです。なんのためのペン芯なのでしょう。
ペン先を抜いてみようと試みましたが、古典BBらしき固着が固く抜けません。別に苦労して抜きたいとも思いません。アスコルビン酸で還元しようかとも思いましたが面倒なのでやめました。
インキは入れ方がわからない。入れたところでボタ落ちする。しかも尻軸からインキが漏れてくる。私にはブログのネタにする以外の使い道が浮かびません。
で、結局このペンはパイロットのペンなのでしょうか? 何かご存知のかたはコメントなりtwitterなりで知らせていただければ幸いです。
────────────────
2012/09/16 追記
何人かからtwitterにて情報を教えていただきました。
このペン、パイロットではないそうです。この形状のクリップは昔はいっぱいあったそうで。矢羽根クリップのパーカーすら丸玉クリップを採用していた時期があったとか。
そしてメーカー名ですが、やはりEver bestだそうです。ただしEver bestはペン先メーカーで、軸に刻印があるものは珍しいとか。
しかしEver bestは卸売業者であるという説も……。また、クリップの「NEW CLIP」は個人で製造した万年筆によくあるものとの情報も。
ぺん★ぱれーどっ!
EVERBEST Fountain Pen 14
http://blog.livedoor.jp/pen_parade1000/tag/EVERBEST
masahiro万年筆製作所の万年筆
メーカーは「NEW CLIP」!?
http://masahiro14k.blog67.fc2.com/blog-entry-36.html
さて、いろいろな情報があってこのペンの出自を正確に特定することはできなさそうに思えます。もとよりどうしても知りたいわけでもありません。
また、このペンはやはりインキ留め式のようです。よくよく見てみれば、首軸とネジ部との境目にわずかに段差が見受けられます。おそらくここから外れるのでしょう。
尻軸の気密さえ修理すれば復活すると言われましたが、M1000がともすればM300に見えてしまうような常識はずれの太軸、修理したところで何になるでしょう? M1000でも少々太過ぎに思えているのに。持ち歩きもできませんしね。
手間をかけて修理する意義は私には見いだせません。やはりこのペンは引き出しの中で死蔵されることとなるでしょう。
2012/08/04
ペン先のめっきによるたわみへの影響、その2。
先日、Wolfram Alphaというウェブページを見つけました。こんなに面白いオモチャがあったとは! 今まで知らなかったのは損していましたね。自分の寡聞を恥じ入るのみです。
で、これがあれば以前にやっためっきの影響の積分が簡単にできるじゃありませんか。以前にやった積分が合っているか、確かめてみました。
結論を書きますと、大間違い。元のものは一年以上前の計算なのでもはや過程を覚えていませんが、当時の私は計算詰めで疲れていたのでしょうか。そうとう苦労した覚えもありますし、少々投げやりだったのかも知れません。arctanの微分ね……。普段使わないので盲点でした。公式も導出はできますが覚えてませんし。
しかし、Wolfram Alphaを使えば五日間やり通しで、挙句間違っていた計算がほんの数秒で……。文明の利器とは素晴らしい。出た結果を自分で積分して確かめるのには数時間必要としましたが。答えがわかっていると、そこにたどり着くまでの道筋も朧げながら浮かんできますね。それでも数時間かかったのは私の数学能力の問題です。
では正しい式をば。計算の過程はちょっと数学ができる人ならばWolfram Alphaでどうとでもなるので、
を二階積分してdy(l)/dx = 0, y(l) = 0の境界条件から積分定数を求めたあとのy(0)だけ示します。
定数a, bは以前の記事と同じ、
で示されます。これがペン先丸み、ペン先厚み勾配を無視した場合のペンポイントの柔らかさの公式です。サファリのような平べったいニブならばそこそこの精度が出るかと思われます。
W以外は梁の性状から決定される定数ですので、これらを計算した値がペン先先端でのばね定数になります。
計算に使用する数値は以前の記事と同じ
bs: 0.5mm
be: 7mm
l: 9mm
h: 0.4mm
E, E1: 78GPa
E2: 359GPa
δ: 0.3μm
です。
結果は以下のとおり。y1がめっきなし、y2がめっきありです。
y1 = 0.1723762795W
y2 = 0.1685694686W
両者の比は2.21%です。前回の結果が2.81%ですので、そこまで大きな差はありません。
自分の持っているペン先でどのくらい変わるか知りたければ、ペンポイントの幅bs、エラの幅be、エラからペンポイントまでの長さl、ペンの厚みhを計測して上の式に入れれば分かります。計算の時はdegじゃなくradで計算してくださいね。
これら4つの数値の製造誤差、標準偏差がわかれば、上の2.21%が棄却域0.05で有意に差があるかどうかなんてのも分かるのですがねー。社外の人間が得られる情報ではありませんね。
しかしWolfram Alphaの便利さよ! ここまで便利ならば複雑になるからと諦めていたペン先丸み、ペン先厚み勾配を加味した計算もできるかもしれません。積分定数を求めるのがしんどそうですけど。
で、これがあれば以前にやっためっきの影響の積分が簡単にできるじゃありませんか。以前にやった積分が合っているか、確かめてみました。
結論を書きますと、大間違い。元のものは一年以上前の計算なのでもはや過程を覚えていませんが、当時の私は計算詰めで疲れていたのでしょうか。そうとう苦労した覚えもありますし、少々投げやりだったのかも知れません。arctanの微分ね……。普段使わないので盲点でした。公式も導出はできますが覚えてませんし。
しかし、Wolfram Alphaを使えば五日間やり通しで、挙句間違っていた計算がほんの数秒で……。文明の利器とは素晴らしい。出た結果を自分で積分して確かめるのには数時間必要としましたが。答えがわかっていると、そこにたどり着くまでの道筋も朧げながら浮かんできますね。それでも数時間かかったのは私の数学能力の問題です。
では正しい式をば。計算の過程はちょっと数学ができる人ならばWolfram Alphaでどうとでもなるので、
を二階積分してdy(l)/dx = 0, y(l) = 0の境界条件から積分定数を求めたあとのy(0)だけ示します。
定数a, bは以前の記事と同じ、
めっきなしの場合。
めっきありの場合。
で示されます。これがペン先丸み、ペン先厚み勾配を無視した場合のペンポイントの柔らかさの公式です。サファリのような平べったいニブならばそこそこの精度が出るかと思われます。
W以外は梁の性状から決定される定数ですので、これらを計算した値がペン先先端でのばね定数になります。
計算に使用する数値は以前の記事と同じ
bs: 0.5mm
be: 7mm
l: 9mm
h: 0.4mm
E, E1: 78GPa
E2: 359GPa
δ: 0.3μm
です。
結果は以下のとおり。y1がめっきなし、y2がめっきありです。
y1 = 0.1723762795W
y2 = 0.1685694686W
両者の比は2.21%です。前回の結果が2.81%ですので、そこまで大きな差はありません。
自分の持っているペン先でどのくらい変わるか知りたければ、ペンポイントの幅bs、エラの幅be、エラからペンポイントまでの長さl、ペンの厚みhを計測して上の式に入れれば分かります。計算の時はdegじゃなくradで計算してくださいね。
これら4つの数値の製造誤差、標準偏差がわかれば、上の2.21%が棄却域0.05で有意に差があるかどうかなんてのも分かるのですがねー。社外の人間が得られる情報ではありませんね。
しかしWolfram Alphaの便利さよ! ここまで便利ならば複雑になるからと諦めていたペン先丸み、ペン先厚み勾配を加味した計算もできるかもしれません。積分定数を求めるのがしんどそうですけど。
2012/07/08
Dr.Jansen wine ink Barbaresco
製造中止となって久しいワインインク。買っておけばよかったと後悔していました。
しかしこの前、エンパイアグリーンを買いに文具屋に行ってみたところ……あれ? このヤンセンの棚に置いてあるインクって、ワインインク?
我が目を疑いましたが、それは明らかにネットで見たものと同じラベル。店員さんに確認したところ、やっぱりワインインク。その時点で購入は決めていましたが、色見本を見せてもらいました。少々ワインインクに期待していた濃い赤よりは明るめでしたが、この機を逃せばもはやチャンスはないと思い、購入。
この廃盤インクをレビューする意味はあるのだろうか、と思いつつ書きます。
赤系インクもあまり持っていません。上から
Pilot 色彩雫 夕焼け LAMY2000 B
MontBlanc Brown 濃縮 ガラスペン
Dr.Jansen Barbaresco Diamond 530
このインク、まず特筆してフローが良いです。ガラスペンで試し書きすると、あっという間に溝に溜まったインクを消費してしまいます。それは万年筆に入れても変わらず、まさにつゆだく状態。粘度が低いこともこのフローの一助となっているのでしょう。そしてこの粘度の低さのおかげで、ペン先・紙間の潤滑効果が低めです。
ワインインクということで匂いを嗅いでみたのですが、特にいい匂いとも感じませんでした。そもそもワインを飲まないのでよくわかりません。
色味ですが、このインクは色の変化が大きいです。乾くとすぐ変色するわけではなく、一分くらいかけて変色していきます。
変色前はオレンジが強く、色彩雫の夕焼けとあまり変わりません。色が変わると黄色味が抜けて赤っぽくなります。変色後はボルドーっぽいでしょうか。#993A29くらい、かなぁ。
イメージとしては変色前はトマト、変色後は明るめの血液といった印象です。紙にもよりますが、濃淡の薄いところではピンクっぽく見えることもあります。
最近はBBに傾倒していた以前とは違い、いろんなカラーインクを使うようになってきました。そのせいもあってか、この色もそんなに主張が強すぎるようには思いません。とはいえ、まず比較できるような赤インクが少ないのでたいして参考になる意見は言えないのですけどね。
2012/07/01
J.HERBIN Vert Empire
エルバン、エンパイアグリーンです。マーレ・ティレニアに入れるために買いました。
エルバンのインクは初めてです。滲みやすいかも、という懸念があったのですが、Premium C.D.で特に問題なく使えました。
この瓶、ペンを置くための凹みが付いています。試しにマーレ・ティレニアを置いてみましょう。
まともに置けない。
置けるのはせいぜいがガラスペンくらいの太さですね。
色ですが、私は緑インクをろくに持っていないのでたいした比較ができません。とりあえず上から
PR Foam Green ガラスペン
Pelikan Edelstein ink Jade LAMY joy
HERBIN Vert Empire マーレ・ティレニア
です。字の傾き具合が酷いけど書きなおすのも面倒なのでそのまま。
さて、私はこのインクに「一瞬黒に見えるくらいの濃い緑」を期待して購入しました。しかし実際に使ってみて、その期待は裏切られました。
確かに濃いのですが、それは彩度が低く、明度も高くない色だから濃く見えるだけのような。黒に見間違えるようなことはありえません。黒に近い緑ならゲーテを買うのが正解なんでしょうね。
緑という色は色相環の中では青と黄色の間に挟まれています。エンパイアグリーンはどちらかといえば黄色に寄った緑と言えるでしょう。ただ、その黄色成分も僅かで黄緑と言えるレベルではありません。純粋な緑にかなり近いと思います。#779E52ってところでしょうか。
私はこの色からは「植物」の印象を強く受けます。薄暗いところで見る蔦の色、とでも言いましょうか。「萌芽」だとか「新緑」だとかいう言葉が似合う色を、実用性を高めるために少し暗くしたといったところです。
期待していた色とは違いますが、これはこれで大変いい色です。この色でノートを一面埋めても全くうるさくはなく、優しげな印象ですらあります。
インクにつきものの乾き色変化ですが、
フローは普通、粘度も普通。乾くまでの時間も普通……。耐水性はほぼ皆無。うっすらと黒っぽい描線は残ります。機能面で特筆するような特性は何もないですね。もっとも、こうした要素をたいして重視していない私には正確な評価ができている自信はありません。あまり信用しないでください。
月夜は正直、大失敗したなぁと思ったのですが(今は気に入ってます)、このインクは買って大正解でした。嫌いになる要素が見当たりません。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
12/7/7追記
色変化についてですが、変化が少ないというのは満寿屋の原稿用紙での話でした。Premium C.D.ではけっこう変化します。上には黄色が減ると書きましたが、Premium C.D.ではむしろ黄色が増しています。
また印象の話になってしまうのですが、生き生きとした植物がだんだんと枯れていくような……その過程で変化が止まっている感じです。
2012/06/30
Aurora Mar Tirreno
パイロットもペリカンも、いきなり高いところに手を出して……そしてまたやってしまいました。アウロラの初万年筆、マーレ・ティレニアです。
私は緑が好きです。そして重いペンが好み。アウロラはいつか手を出そうと決めていたメーカーですが、候補のオプティマは軽い! そこだけがネックでした。あと緑にシルバートリムがないのも残念なポイント。
……なーんてことを考えていたら、四つの海シリーズの二つ目がこれです。オプティマよりも好みな色合いの、綺麗なエメラルドグリーン。スターリングシルバー。そして重い。
よーく考えました。いろいろ考えました。でも、どうしても買わない理由が見つからなかったのです。あとはひたすら答えの決まった自問自答。そしてつつがなく購入の流れです。
まあ立派な箱。置き場所に困っちゃうわ。これ88ブラックの使い回しなんじゃ? 裏に起毛した素材が貼られていて滑りにくくなってます。
箱を開けてみるとペン一本とインクの小瓶が鎮座ましましておりました。
インク小瓶は紙のパッケージと紐が封蝋で留められていました。写真撮る前に剥がしちゃいましたが。剥がしたら紙の残骸が……。これは酷い。
このインクは黒でした。黒インクを最後に使ったのは何年前だろう……。黒インクのボトルはクインクしか持っていませんし、そのクインクもキャップが固着して開かずに困っています。いや、黒インクは全く使わないので開かなくても別に困っていませんね。私の黒インクに対する興味というのはその程度です。このボトルも開かずのボトルになっちゃうのでしょうか。
第一印象は短い。そして手にとってまず思ったことは重い。かなりなフロントヘビーです。首軸がスターリングシルバーなので当然ですね。キャップをした状態での重心はちょうどキャップリング上端くらいの位置です。
キャップを後ろに差して筆記状態とすると、たいしてフロントヘビーには感じませんでした。そもそも私はペンの重心に無頓着なので、異常な重心バランスでないと違和感を覚えません。
筆記状態ではキャップがちょっとカタカタ言います。勝手に外れる程のものではないので、あまり気にしないこととしましょう。
そして外見でまず驚いたことが一つ。スターリングシルバーの首軸に切られたネジに違和感……。ルーペで覗いてみるとなんとこのネジ、台形ネジではないですか!
台形ネジといえば摩擦低減のために用いられる事が殆どです。30°台形ネジならば一般的な三角ネジと比較してその摩擦はcos30°/cos15°倍、つまり9割弱になります。三角ネジに比して加工が面倒で自動調心効果が小さくなるデメリットはありますが。
しかし万年筆のキャップに台形ネジを使う意図とは……? 関係がありそうなのは加工が面倒という点くらいでしょう。摩擦が小さくなるという点も、こと万年筆のキャップという用途ではデメリットと言えます。キャップが外れやすくなるだけです。高級感出したかったのですかね?
オプティマも台形ネジになっているのでしょうか。ネットの写真では判別がつきません。こんなところ注目する人もそうそういませんし。
ネジは二条ネジで、約一回転半で外れます。
さて、その他の外観です。まずは軸に使われているアウロロイド。
この緑色はかなり好みです。この柄はモザイク柄と言っていいのでしょうか。平面的な柄だけでなく、奥行き方向にも変化のある三次元的な広がりを持っています。
似たような樹脂で、以前購入したレターナイフがあります。この持ち手も奥行きのある綺麗なマーブル模様です。二つを並べて比較してみると、双方甲乙つけがたい美しさです。奥行き感ではレターナイフに軍配かな。
金属部分は前述のとおり、スターリングシルバーが使われています。天冠リング部にちっちゃく925と刻印がされております。その横にはこれまたちっちゃーく「☆S TO」の文字が。ルーペで見てようやく判別出来る大きさです。「☆S」はスターリングシルバーの意でしょうが、「TO」はなんでしょう? もしかしたら「T0」なのかもしれません。どのみち意味は不明です。
天冠リング、キャップリング、尻軸リングの各所には刻印がされています。火山がどうの、ヌラーゲがどうの。そんなに興味ありません。説明書の裏に四つの海のモチーフが描かれています。上から二番目がマーレ・ティレニアです。刻印はリグリアのイルカの方が好きかなぁ。キャップリングにはシリアル番号も入っています。分母がありませんが、480本限定のようです。
85周年レッドとは違い、尻軸先端には何の刻印もなくツルツルです。天冠も樹脂ではなく金属になっています。
そして何より、私が一番気に入っているのが首軸もスターリングシルバー製であるということです。首軸が金属で作られた万年筆は少ないです。それが理由かはわかりませんが、こういう仕様は高級感を感じませんか?
クリップはアウロラ独特の形状です。この形、丸いところは金属球が溶接もしくはろう付けされているのかと思っていたのですが、板からの成型品なのですね。上から見ると隙間が、斜め下から見ると板の継ぎ目が見えます。クリップのバネは823なみに強いです。
クリップの根本ですが、天冠との間に隙間があります。ちょっと残念。天冠とクリップの角度も微妙にずれていますね。
スターリングシルバー含め、銀製品というものを初めて持ちます。最も硫化しにくいスターリングシルバーでも、やはり硫化は進むようです。燻銀とその変化の過程を楽しみにしています。
キャップの内側を見てみます。メネジはオプティマ同様、樹脂に直接切られています。オプティマでは強いトルクでキャップを閉めるとこのメネジが壊れてしまうという症例があるようです。ちょっと不安なので、キャップを閉めるときには軽く締めることを意識しましょう。
びっくりしたのがインナーキャップがないこと。調べてみると、アウロラにはもともとインナーキャップはないんですね。気密性は大丈夫なのでしょうか。
吸入式ならば気密性を調べる手っ取り早い方法があります。それはキャップをしたままピストンを下げること。抵抗を感じるならば気密性は高く、さしたる抵抗もなくピストンが下がるならば気密性は期待できません。まあ、もうインク入れちゃったのでやりませんけど。
インク窓はとても見やすいです。M1000のインク窓と比較すると雲泥の差。インク窓の中央に見える棒はペン芯の先端のようです。これ、見えるのが嫌いな人もいそうですが。
棚吊りは皆無です。やっぱり吸入式は素晴らしい!
ピストンを下げると、アウロラ独特のリザーブタンクが見て取れます。これ、明らかにリザーブタンクが無いほうがインクはたくさん入りますよね。なんとなく、ピストンを下げたときに飛び出したペン芯に当たらないように保護するのが主目的でリザーブタンクはおまけなんじゃないかと勘ぐってしまいます。
ペン先は18KのBです。アウロラの通常品は14Kで、こうした限定品だけ18Kになっているようですね。パイロットみたい。
正直、アウロラのニブの刻印はそんなに好きじゃありません。限定品なんだからもうちょっと凝ってくれても良かったのに。
ペン先はさすがアウロラ、典型的な丸研ぎです。段差なし、腹開きはないけど背開きもなし、切り割りは最初から実に調度良いくらいのクリアランスを持っています。M1000は切り割りの内側が摩耗するのが嫌で早々に調整してしまいましたが、このペンは右ねじりの癖を持つ私でも最低限の筆記には一切の調整が不要ですね。ただ、インクのせいかもしれないのですがほんの少し書き出し掠れがあります。
アウロラのペン芯はエボナイト製らしいですね。エボナイト製だというだけでセーラーやパイロットのペン芯のような性能を得られるわけでもないですし、ペン体にエボ焼けを生じさせるということであまりいい印象を持っていないです。ペン芯にはペン先の太さが印刷されています。
このペン芯は完全な円筒形で、ペン体のはまる箇所に凹みを設けてはいないそうです。おかげでペン芯ズレの起きやすいこと。最初に少しペン芯の中心と切り割りがあっていないなと思って、手でクイッとペン体を押してみたらすぐにズレました。
肝心の書き味です。アウロラはペン先を自社製造しており、サリサリの書き味と言われています。しかし、私の買ったペンは筆記音はしますが特別サリサリといった感触かというと、そんなことはありません。Bだからでしょうか。
このペンの書き味は一言で言うと「つまらない」です。ペン先はこれぞガチニブと自信を持って言える硬さ。研ぎは綺麗な丸研ぎで右ねじりでも素直にインクが出てくれますし、どんな角度でも一切の不快感は感じず、そのかわりぞくぞくするようななめらかな書き味もありません。趣味としては今一歩、実用品としては非の打ち所がありません。
全体的に褒めているのか貶しているのか判然としないレビューになりましたが、私はとても満足しています。これからどんどん使っていき、銀の硫化を楽しんでいきたいです。
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