2012/06/30

Aurora Mar Tirreno


 パイロットもペリカンも、いきなり高いところに手を出して……そしてまたやってしまいました。アウロラの初万年筆、マーレ・ティレニアです。
 私は緑が好きです。そして重いペンが好み。アウロラはいつか手を出そうと決めていたメーカーですが、候補のオプティマは軽い! そこだけがネックでした。あと緑にシルバートリムがないのも残念なポイント。
 ……なーんてことを考えていたら、四つの海シリーズの二つ目がこれです。オプティマよりも好みな色合いの、綺麗なエメラルドグリーン。スターリングシルバー。そして重い。
 よーく考えました。いろいろ考えました。でも、どうしても買わない理由が見つからなかったのです。あとはひたすら答えの決まった自問自答。そしてつつがなく購入の流れです。


 まあ立派な箱。置き場所に困っちゃうわ。これ88ブラックの使い回しなんじゃ? 裏に起毛した素材が貼られていて滑りにくくなってます。


 箱を開けてみるとペン一本とインクの小瓶が鎮座ましましておりました。


 インク小瓶は紙のパッケージと紐が封蝋で留められていました。写真撮る前に剥がしちゃいましたが。剥がしたら紙の残骸が……。これは酷い。
 このインクは黒でした。黒インクを最後に使ったのは何年前だろう……。黒インクのボトルはクインクしか持っていませんし、そのクインクもキャップが固着して開かずに困っています。いや、黒インクは全く使わないので開かなくても別に困っていませんね。私の黒インクに対する興味というのはその程度です。このボトルも開かずのボトルになっちゃうのでしょうか。


 第一印象は短い。そして手にとってまず思ったことは重い。かなりなフロントヘビーです。首軸がスターリングシルバーなので当然ですね。キャップをした状態での重心はちょうどキャップリング上端くらいの位置です。
 キャップを後ろに差して筆記状態とすると、たいしてフロントヘビーには感じませんでした。そもそも私はペンの重心に無頓着なので、異常な重心バランスでないと違和感を覚えません。
 筆記状態ではキャップがちょっとカタカタ言います。勝手に外れる程のものではないので、あまり気にしないこととしましょう。


 そして外見でまず驚いたことが一つ。スターリングシルバーの首軸に切られたネジに違和感……。ルーペで覗いてみるとなんとこのネジ、台形ネジではないですか!
 台形ネジといえば摩擦低減のために用いられる事が殆どです。30°台形ネジならば一般的な三角ネジと比較してその摩擦はcos30°/cos15°倍、つまり9割弱になります。三角ネジに比して加工が面倒で自動調心効果が小さくなるデメリットはありますが。
 しかし万年筆のキャップに台形ネジを使う意図とは……? 関係がありそうなのは加工が面倒という点くらいでしょう。摩擦が小さくなるという点も、こと万年筆のキャップという用途ではデメリットと言えます。キャップが外れやすくなるだけです。高級感出したかったのですかね?
 オプティマも台形ネジになっているのでしょうか。ネットの写真では判別がつきません。こんなところ注目する人もそうそういませんし。
 ネジは二条ネジで、約一回転半で外れます。


 さて、その他の外観です。まずは軸に使われているアウロロイド。
 この緑色はかなり好みです。この柄はモザイク柄と言っていいのでしょうか。平面的な柄だけでなく、奥行き方向にも変化のある三次元的な広がりを持っています。


 似たような樹脂で、以前購入したレターナイフがあります。この持ち手も奥行きのある綺麗なマーブル模様です。二つを並べて比較してみると、双方甲乙つけがたい美しさです。奥行き感ではレターナイフに軍配かな。


 金属部分は前述のとおり、スターリングシルバーが使われています。天冠リング部にちっちゃく925と刻印がされております。その横にはこれまたちっちゃーく「☆S TO」の文字が。ルーペで見てようやく判別出来る大きさです。「☆S」はスターリングシルバーの意でしょうが、「TO」はなんでしょう? もしかしたら「T0」なのかもしれません。どのみち意味は不明です。


 天冠リング、キャップリング、尻軸リングの各所には刻印がされています。火山がどうの、ヌラーゲがどうの。そんなに興味ありません。説明書の裏に四つの海のモチーフが描かれています。上から二番目がマーレ・ティレニアです。刻印はリグリアのイルカの方が好きかなぁ。キャップリングにはシリアル番号も入っています。分母がありませんが、480本限定のようです。


 85周年レッドとは違い、尻軸先端には何の刻印もなくツルツルです。天冠も樹脂ではなく金属になっています。
 そして何より、私が一番気に入っているのが首軸もスターリングシルバー製であるということです。首軸が金属で作られた万年筆は少ないです。それが理由かはわかりませんが、こういう仕様は高級感を感じませんか?



 クリップはアウロラ独特の形状です。この形、丸いところは金属球が溶接もしくはろう付けされているのかと思っていたのですが、板からの成型品なのですね。上から見ると隙間が、斜め下から見ると板の継ぎ目が見えます。クリップのバネは823なみに強いです。


 クリップの根本ですが、天冠との間に隙間があります。ちょっと残念。天冠とクリップの角度も微妙にずれていますね。
 スターリングシルバー含め、銀製品というものを初めて持ちます。最も硫化しにくいスターリングシルバーでも、やはり硫化は進むようです。燻銀とその変化の過程を楽しみにしています。


 キャップの内側を見てみます。メネジはオプティマ同様、樹脂に直接切られています。オプティマでは強いトルクでキャップを閉めるとこのメネジが壊れてしまうという症例があるようです。ちょっと不安なので、キャップを閉めるときには軽く締めることを意識しましょう。
 びっくりしたのがインナーキャップがないこと。調べてみると、アウロラにはもともとインナーキャップはないんですね。気密性は大丈夫なのでしょうか。
 吸入式ならば気密性を調べる手っ取り早い方法があります。それはキャップをしたままピストンを下げること。抵抗を感じるならば気密性は高く、さしたる抵抗もなくピストンが下がるならば気密性は期待できません。まあ、もうインク入れちゃったのでやりませんけど。


 インク窓はとても見やすいです。M1000のインク窓と比較すると雲泥の差。インク窓の中央に見える棒はペン芯の先端のようです。これ、見えるのが嫌いな人もいそうですが。
 棚吊りは皆無です。やっぱり吸入式は素晴らしい!
 ピストンを下げると、アウロラ独特のリザーブタンクが見て取れます。これ、明らかにリザーブタンクが無いほうがインクはたくさん入りますよね。なんとなく、ピストンを下げたときに飛び出したペン芯に当たらないように保護するのが主目的でリザーブタンクはおまけなんじゃないかと勘ぐってしまいます。


 ペン先は18KのBです。アウロラの通常品は14Kで、こうした限定品だけ18Kになっているようですね。パイロットみたい。
 正直、アウロラのニブの刻印はそんなに好きじゃありません。限定品なんだからもうちょっと凝ってくれても良かったのに。


 ペン先はさすがアウロラ、典型的な丸研ぎです。段差なし、腹開きはないけど背開きもなし、切り割りは最初から実に調度良いくらいのクリアランスを持っています。M1000は切り割りの内側が摩耗するのが嫌で早々に調整してしまいましたが、このペンは右ねじりの癖を持つ私でも最低限の筆記には一切の調整が不要ですね。ただ、インクのせいかもしれないのですがほんの少し書き出し掠れがあります。
 アウロラのペン芯はエボナイト製らしいですね。エボナイト製だというだけでセーラーやパイロットのペン芯のような性能を得られるわけでもないですし、ペン体にエボ焼けを生じさせるということであまりいい印象を持っていないです。ペン芯にはペン先の太さが印刷されています。
 このペン芯は完全な円筒形で、ペン体のはまる箇所に凹みを設けてはいないそうです。おかげでペン芯ズレの起きやすいこと。最初に少しペン芯の中心と切り割りがあっていないなと思って、手でクイッとペン体を押してみたらすぐにズレました。

 肝心の書き味です。アウロラはペン先を自社製造しており、サリサリの書き味と言われています。しかし、私の買ったペンは筆記音はしますが特別サリサリといった感触かというと、そんなことはありません。Bだからでしょうか。
 このペンの書き味は一言で言うと「つまらない」です。ペン先はこれぞガチニブと自信を持って言える硬さ。研ぎは綺麗な丸研ぎで右ねじりでも素直にインクが出てくれますし、どんな角度でも一切の不快感は感じず、そのかわりぞくぞくするようななめらかな書き味もありません。趣味としては今一歩、実用品としては非の打ち所がありません。

 全体的に褒めているのか貶しているのか判然としないレビューになりましたが、私はとても満足しています。これからどんどん使っていき、銀の硫化を楽しんでいきたいです。

7 件のコメント:

  1. こんにちは、

    詳細なレポート、大変参考になりました。ありがとうございます。実は私もこのペン、狙っておるのですが、こちらの記事で気になる点を見てしまいました。それはキャップの内部です。インナーキャップがないということで、パーカーのニブの渇きで懲りている自分にとっては窮めて脅威であります。地方に住んでいるので、このペン、置いてあるところまで行って確かめるのは気が進みません。その後の経過はいかがでしょうか。追加レポートをお待ちしています。

    返信削除
  2. >>匿名さん
     パーカーは乾きますね。私もソネットを使っていました。ソネットは乾きよりもインク漏れのほうが悩まされましたが……。
     さて、アウロラの乾きですが、少なくともソネットよりは乾きにくいかと思われます。
     キャップに空気穴が開いておりません。そのためそこまで乾きにくいということもないかと思います。エンパイアグリーンを入れた場合ですが、2日放置したあとでも書き出しは濃いですが問題なく書けます。そこまで怖がる必要はないでしょう。

    返信削除
  3. 早速のご返答、痛み入ります。

    なるほど、濃いぃですか。どちらかというとドイツ系のかっちりしたボディのほうが好みなのですが、このペン、85年記念レッド、リグーレといいあまりに美しすぎます。年末くらいには買えそうですが、それまで在庫がありますかね。買えましたらまたご報告させていただきましょう。

    ありがとうございました。

    返信削除
  4.  万年筆の限定品は1年経ってもまだ残っているということは珍しくありませんので、年末ならまだ手に入るかと思われます。
     軸の美しさはイタリア万年筆の独擅場ですね。報告楽しみにしています。

    返信削除
  5. こんばんは 

    以前にインナーキャップの件でお世話になりました。名無しではなんですし、透明軸が好きなので、デモンスと名乗らせていただきます。

    いろいろ悩みまして、本当に悩んだ末にやっと購入いたしました。

    >よーく考えました。いろいろ考えました。でも、どうしても買わない理由が見つからなかったのです。あとはひたすら答えの決まった自問自答。そしてつつがなく購入の流れです。

    このようにおっしゃっていますが、私の場合は買わない理由のほうが多すぎました。約1年半くらいじめじめと考えていたでしょか。インナーキャップの件もそうですし、ペリカンのM1005を3本使っている手前、M1000との比較写真に於けるこのペンの小ささ、レッド85と違って、銀の手入れが必要な事、巷のアウロラのニブのガチニブで書き味も詰まらないとの噂、エボナイトペン芯の採用、吸入方式がリザーブタンク付きピストン吸入方式(エボナイトのインク吸水性、タンクの二重構造はどちらも洗浄しやすさを損なうのでインクを変えづらい)、なによりもそもそも10万円越えのペンが必要なはずがない事、正直プラチナの#3776シリーズで筆記は私の場合完全に事足りてしまいますから。

    それでも我慢に我慢を重ねてきましたが、松下奈緒をメディアで見かけたり、松下奈緒という文字を見ただけであの青く清清しい軸の事を思い出してため息をつくので、もうあきらめて買うことにしました。松下奈緒は売ってませんが、リグリアなら買えるじゃないかと。もうお分かりだと思いますが私の狙っていた軸は青軸のマーレ・リグリアです。

    ただし私が買ったのはローラーボールです。これなら幾つかの私の不満が和らぐと思ったからです。この美しい軸を見て今は十分に満足しています。因みにこちらも台形ねじでしたよ。

    というわけで、またお邪魔させていただきたく存じ上げますが、そのときまでお元気で、楽しい記事をよろしくお願いいたします。長々と失礼いたしました。

    返信削除
    返信
    1. >>デモンスさん
       おひさしぶりです。

       とうとう買いましたかー。と思って読んでみるとリグリア! しかもRB! なかなか意外な展開でした。
       リグリアの青もいい色ですよね。スタンダードな青色ですが、それでも不思議と他の青軸よりも綺麗に見えます。イルカの刻印もいいですね。

      削除
  6. デモンスです。お元気でいらっしゃいますか?

    今月末にマーレ・イオニオが発売になるようですね。ちょっとアマい画質の画像を見ると、どうやらオレンジ色にみえるのですが、それはそれで、とても綺麗です。はやくもっと鮮明な画像を見てみたいものです。楽しみです。

    ではでは

    返信削除